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防災歳時記2月24日 タロとジロを置き去りに…南極観測隊の帰国

 樺太犬と人間のドラマを描いた名作として知られる、高倉健主演の『南極物語』(1983年)。

 

 当時の興行収入記録を塗り替える約59億円の大ヒットとなったこの作品は、第二次南極観測隊が苦汁の決断の末、犬の首輪をつけたまま極寒の昭和基地に15頭の樺太犬を置き去りにして日本へ帰国し、そしてその翌年、再び出向いた南極でタロとジロの兄弟犬に再会する――という奇跡の物語である。

 

 このストーリーに涙を流す者。あるいは批判の声を上げる者。人によってその反応は様々だが、極寒の地でタロとジロが人の手を借りず、2頭で生き残った事実だけは動かない。

 

 いったい兄弟犬は、何を食べて生き延びたのか?

 

 第二次南極観測隊が砕氷艦「宗谷」に乗って基地を離れ、15頭の犬が取り残されたのは今から56年前、1958年の今日2月24日のことだった。

 樺太犬は、その名の通り北海道の北にある樺太や千島列島を故郷とし、寒さには滅法強い。体重も最大で45キロほどある大型犬で、雪の上で犬ぞりを引かせるには最高の犬種だった。

 

 昭和基地に残された15頭も犬ぞりのために連れて来られたもので、当然ながら寒さを苦としない。むしろ、日本から南極へ向かうときに通る赤道直下では暑さに耐えられないため、船内に冷房室が用意されたほどだった。

 

 南極の寒さにも耐えられる種類であるからして、もし首輪を付けないまま基地に放置したのでは、その周囲にいる在来種たちを食い荒らして、生態系が壊れる懸念は否めない。故に首輪のまま置き去りという措置は、決して間違った判断ではなかったとされている。

 

 いずれにせよ、この過酷な措置のため15頭のうち7頭は首輪に繋がれたまま餓死。一方、「首輪抜け」に成功した8頭のうち、1959年1月、生きて南極隊と再会したのはタロとジロの2頭だけだった。

 

 そしてその2頭が南極で主食としていたのは、なんと「アザラシの糞」だった可能性が高いという。

大ヒットとなった高倉健主役の『南極物語』

 アザラシの糞には未消化のエビや魚が含まれており養分は十分。

 

「汚ない」という感覚はそれこそ人間のエゴで、野生動物や犬にとって糞を食する行為は決して皆無ではないという。

 

 むろん、いくらなんでもそれだけでは栄養分は足りず、タロとジロが生きたペンギンを襲って食していた可能性も高い。実際に、南極で彼らの世話をした隊員は、2頭がペンギンを襲う場面も目撃している。

 

 ただ、アザラシの糞で犬たちの栄養分が確保できるならば、置き去りにされた15頭によって生態系が大きく崩されるような確率は決して高くはなかったはず。

 

 この樺太犬たちはすべてオスであり、人の目の届かぬところで子孫を繁栄させる可能性は皆無であったのだから、何も餓死させることはなかった。

 

 今となってはどうにも取り返しはつかないが、犬にとっても人間にとっても、実に切ない話である。

国立博物館に展示されているジロの剥製/wikipediaより引用

 文部省管轄下の南極観測隊は、第一次から約60年が過ぎ、現在は第55次隊が派遣されている。

 

 そこにはもう犬の姿はない。スノーモービルや雪上車が取って代わり、犬ぞりの出番は消滅したのである。

 

 二度と奇跡のストーリーが生まれる可能性はなくなったが、これでいいのだろう。

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