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防災歳時記10月11日リチャードソンの夢とスパコン『京』

ルイス・フライ・リチャードソン(1881 - 1953)

 世の中にはおよそ数字で表現するのにふさわしくない対象(例えば恋愛とか)をどうしても数式で表現したいタイプの人がいる。

 

 例えばノーベル経済学賞を受賞するような理論経済学者などの多くはこのタイプだ。

 

 そして今から132年前、1881年の今日10月11日イギリスで生まれた男の子も、経済学者ではないが、「何でも数式で表現したいタイプ」に成長した。

 

 ルイス・フライ・リチャードソン。数学者・気象学者・心理学者。

 

 リチャードソンがまず興味を持った対象は「天気」。

 

 複雑な微分方程式を使って、天気予報ができないか?と考えた。

 

 できるにはできたが、すべてのデータ処理は人力による計算だったので、わずか6時間の予報をするのに約2ヶ月かかり、さらに処理間違いもあったため、結果、彼の「予報」ははずれ。

 

 のちに、彼は著書の中で、「6万4000人を巨大なホールに集め、指揮者の下で整然と計算すれば、実際に使える予報ができる」とうそぶいた。

 

 そして世間は彼のこの構想を「リチャードソンの夢」と名付けた。

 次に彼が数式で表現しようとした対象は、なんと「戦争」。

 

 「ある国が軍備を増強する割合は、その仮想敵国の軍備量とその国に対する不信感に比例する

(そんなことをわざわざ数式で表現しなくても、直感的に『当たり前』な気もするが)

 

 この想定の下、軍備に関する微分方程式を組み立て、ある2国間関係が「安定」に振れているか、「不安定」な状態にあるかを判別した。

 

 そんな彼が「戦争の原因」について調査している時に、不思議なことを発見する。

 

 いかにも戦争を起こしそうな隣り合った2つの国が主張する2国間の「国境線の長さ」が大きく異なっていること。

 

 例えばスペインは987キロと言い、同じ国境線をポルトガルは1214キロと主張する。オランダは380キロと言い、同じ国境線をベルギーは449キロと言う。

 

 ついにその原因をリチャードソンは突き止めた。

 

 

 「海岸線のような複雑な地形を、細かい単位で測量すればするほど国境線は長くなる

 

 

 彼の不可思議な、いや画期的な発見を当時の学会は無視したが、彼の死後15年以上経って、世界的な数学者であり経済学者であるマンデルブロが、論文「イギリスの海岸線の長さはどのくらいか?」でリチャードソンの研究を引用する。

 

 彼の研究は、今や地形や植生、多くの生物の構造などを説明する「フラクタル関数(構造)」の先駆けだったのだ。

リチャードソンが発見したものは、地形や生物など自然界の多くのものの構造を説明する「フラクタル」だった(撮影:fdecomite)

 話を気象に戻そう。

 

 リチャードソンが「6万4000人いれば…」とうそぶいた「リチャードソンの夢」は、現在では「数値予報」と呼ばれ、気象庁の天気予報の根幹をなす大事な技術となっている。

 

 そして6万4000人の代わりに、例えば日本が誇るスーパーコンピュータ『京』が使われる。

 

 その予測の『初期値』として入力されるのは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が打ち上げた水循環変動観測衛星「しずく」からのリアルタイムの観測データだったりする。

 

 リチャードソンが「6万4000人…」とうそぶいてから実に90年以上経て、最先端の科学技術の上に、彼の挑戦は現実のものとなったのだ。

 

 あなたのまわりに、何でも数式で表そうとする『変人』がいたら注意した方がいい。

 

 その『変人』は、もしかしたら100年時代を先取りした『天才』なのかもしれないから。

「リチャードソンの夢」は約90年の時を経て、例えばスーパーコンピュータ『京』を使って実現された(出典: 理化学研究所)

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